#1 まつりん変身!?
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「またね〜ちひろ」
「うん。じゃ、茉理。また明日」
 いつもの所であたしは、ちひろと別れた。
 園芸部で1人(たまには直樹も手伝ってくれるが)部活に励む事が多いちひろは、頑張りすぎるせいか、いつも夜遅くまで活動をしている。
 カフェテリアの閉店時間まで頑張っている事もしばしばだ。
 だから一緒に帰ることが多かった。
「をぉん!」
 そして大体この時間は深野先生がロータスを連れて散歩している。
 この後はまるぴんが追い越してゆくんだけども。
「こんばんは。先生」
 ぺこり、と頭を下げた。
「今、帰りか? 気をつけて帰るんだぞ」
「大丈夫ですって」
 お決まりの挨拶をして別れた。
 一緒にいたロータスの目が光ったように見えたのは気のせいだろう。
 結局まるぴんは、あたしを追い越していかなかった。
 結先生はもっと遅いんだなとか考えながら、家に着いた。
「ただいまー」
「ははははは〜」
 ドアを開けて靴を脱ぎかけた時、直樹の笑い声が聞こえた。
 まったく。せっかく帰ってきたのだから「おかえり」位は言えないのだろうか?
 それになぜ天文部の部員の方があたしより早く帰ってくるのだろう?
「なんだ、茉理。帰ってきてたのか?」
「今帰って来た所。それよりも。今日は直樹が風呂の当番でしょ?」
「ああ。そうだった。それじゃ用意してくるか。覗くなよ?」
「誰が覗くか!」
「おお〜怖ええ〜」
 さっさと直樹を風呂場に追いやってあたしはTVのチャンネルを変えた。
 この時間はあたしのお気に入りの番組がある。
 この犬、いつ見てもロータスにそっくりなんだよね。
 絶対そうに違いない。と思いながら、話はお笑いの魔法少女物。
 子供っぽい、と思われるかもしれないけれども、コレが結構面白い。
 ひとしきり笑った後、電話が鳴った。

 プルルルルルル〜

「はい、渋垣です」
 直樹はあたしの家にいるから久住じゃなく、渋垣を名乗っている。
 ちょっと複雑な気持ちになった。
「……はい、はい。え! そうなんですか?」
 何だろう? 直樹がびっくりするという事は余程の事だ。
 いつもはこう、何と言うか、やる気が無いような電話なんだけども、今日は違った。
 暫くして直樹がコッチに向かってきた。
「電話は何だったの?」
「茉理! ちひろちゃんがまだ帰ってないって電話があったぞ。一緒じゃなかったのか?」
「途中まで一緒だったけど?」
 あたしは変だと思った。
 あたしの家よりも蓮美寮の方が近い。それに、ちひろは長時間寄り道をするような事はしなかった。
「あたし、探してくる!」
 カバンを置いてあたしは外に飛び出した。

 ちひろと別れた所まで戻り、今度は寮の方に向かう。
 あたしは走った。でも、今日は様子がおかしい。
 こんなに遠くじゃなかったはずなのに、いっこうに近づいている気がしない。

「をぉん!」
 ロータスの声がした。
「ロータス〜」
 あたしは、ロータスを呼んだ。しかし、ロータスはまるで聞こえなかったかのように無反応だった。
「ロ〜タス〜」
 もう一度呼んでみたけれども、聞こえているような気配はない。
 いつもならガサガサと動き回って喜びを表現するのに。おかしい……そう、あたしが思った瞬間、
 ロータスが飛び掛ってきた。
 あたしは間一髪それをよけると寮に向かって走ろうとした。
「茉理! あぶない!」
 え? この声はちひろ? と思ったときはもう遅く、何かに捕まってしまった。
 何に捕まったのかは分からない。だって。見えないんだから。
 ロータスが悠々と横を通り過ぎたかと思うと突然、2本足で立ち上がった。
「フフフッ。この空間からお前は動く事は出来ない」
 あんな大きな犬が立ち上がるとは圧巻だ。しかも、それが喋った。
 あたしは何がなんだかサッパリ分からなかった。
 でも、喋っているのは犬である。あたしは悪態をついた。
「何を言ってるのよ。たかが犬でしょ。犬に出来て人間に出来ない訳がないじゃない」
「たかが、犬。か。それならばコレはどうかな?」
 そう言って、犬は向こうに行って舌なめずりをしていた。
 ――ん? 「お前たち?」
 ちひろもそばにいる、という事?
「ちひろー」
 あたしはちひろを呼んでみた。
「茉理。大丈夫?」
 坂の上を見るとちひろが前屈みのまま固まっていた。
 ちひろ。全然大丈夫そうに見えないんですけど。
 それでもあたしの事を心配してくれるなんて。
「ちひろも捕まってるの?」
「うん。なにかわからない」
 下半身が動かない。まるで金縛りにあったかのように。上半身は動かせるんだけど。
「きゃー」
 犬がちひろを舐めている。犬のくせに。変態だ。
 動けるようになったら絶対あの犬をぶっ飛ばしてやる。
 しかし、体はびくともしない。
「今度はお前だ」
 ちひろから離れて、あたしの方にやってきた。この犬め。
「最低!」
「何とでも言え。お前は動けないのだからな」
 そう、あたしは動けない。辛うじて両手は動かせるけども飛び掛られたらひとたまりもない。
 絶対絶命……あたしは諦めようとした。
 後ろから光が当たってくる。これは車? ラッキー。
「をぉん!」
 犬は後ろにさがった。代わりにバタン、と音がした。
「野乃原先生!」
 あたしはこれまでの経緯を話した。
「それなら、これでその場所を叩けば消えますよ」
 と、言って出したものは……
 ……トレイだった。
「先生。どうしてトレイなんですか?」
 あたしは当然の疑問を発した。
「このトレイは魔法のトレイですよ」
「どうしてそんな物を持ってるんですか」
「それは、渋垣さんならトレイだからです」
 はぁ……。それ、全然答えになってないんですけど。
「それよりも早く試してみればどうですか?」
 仕方無しに結先生からトレイを受け取った。
 半信半疑でその場所を叩いてみた。
 ガン☆
「この〜」
 あたしは力いっぱい叩いてみた。直樹にするみたいに。
 ガシャーン!!
 ガラスが割れるような音がして、下半身に纏わりついていたものが消えたような気がした。
「やった」
「さあ。この調子で橘さんも助けてあげてください」
「うん」
 ちひろの周りを思い切り叩くと同じようにガラスが割れるような音がしてちひろは地面に投げ出された。
「ちひろ!」
 あたしはちひろを抱きかかえて安全な場所に避難した。
「渋垣さん。そのトレイで変身できるんですよ」
 ……え? それってまさか……
「はい、お約束ですから」
「そんな。恥ずかしいですよ。もう、高校生にもなって魔法少女ですか? それはチョット遠慮したいですけど」
「そうしないと、ロータスを元に戻せませんよ?」
 ロータスを元に戻したい。あんな変態みたいな言葉を喋るロータスなんて嫌だ。けれども、魔法少女なんて柄じゃないし……
「さあ。早く。ロータスが逃げますよ」
 仕方ない。
「先生。どうするんですか? 変身」
 あたしは別の意味で諦めた。
「そのトレイを指で回転させるんです。そうするとトレイがステッキになるのでそれを掲げてください」
 うわ。今日見てたTVと同じだ……。
 アレって実は先生の仕業?
 あたしは先生の言葉が死刑執行の言葉にも聞こえた。
「わかりました」
 言われた通りにやってみた。なるほど。ステッキになった。
「コレを掲げればいいんですね?」
「そうです。早くロータスを元に戻しましょう!」
 ステッキを掲げると……おお。TVと同じだ。まさかあたしがこんな事をするなんて……
 光にあたしは包まれた。なんとまぁ、お約束な……。
 カフェテリアの制服っぽい衣装だけども。大きなリボンが凄く狙ってる……はっきり言って恥ずかしい。
 さっさとやっつけて元通りに戻らないと。
「ロータス!! 元に戻って!」

「まつりんアターク!!」
 あたしはステッキをロータスに向かってかざした。ステッキから光が溢れる。
 うゎ。お約束もココまでしますか……。
 あたしは眩暈がした。
「をぉん!!」
 大きな悲鳴を上げて、ロータスは倒れた。
「いいのかな? こんなことして」
「大丈夫ですよ。コレで元に戻りましたから」
 ぐったりしてた犬はすぐに目を覚ました。
「をぉん!!」
 ガサガサガサガサ。
 ロータスが元に戻ったのだろう。ふぅ。お決まりのポーズでじゃれ付いてきた。
「ふふっくすぐったいよーロータス」
「ちっ!」
 どこかから舌打ちの音がした。何者かが逃げていく。
 恥ずかしいから追いかけるのはやめよっと。
「う、う〜ん」
 いけない! この格好のままだと恥ずかしいよ。逃げないと。
「先生! ちひろをお願いします。あたしはちょっと恥ずかしいから」
 あたしは全速力で家に帰った。
 後から考えると変身を解いたら良かったんだ……
 そんな簡単な事にも気付かずに家に帰ってから後悔した。
「茉理〜なんだ? そのカッコ。TVの見過ぎか?」
「うるさい!」
 ガン☆
 あたしは思い切り直樹をステッキで叩いた。
「……あ。変身を解く方法を聞くのを忘れちゃった」
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