#2 ドサクサにまぎれて 戻る 1話へ  昼休み。あたしは天文席の隣に座っているちひろを見つけた。 「あ。ちひろ。昨日は散々だったわね」 「もう、茉理。昨日はそのまま帰っちゃうなんてひどいよ」 「あ、あははは〜ゴメンゴメン。ちょっと逃げていく人を見つけたから追いかけてたの。アハハハハ……」  まさか、本当に変身してしまうとは思わなかった。  それに、トレイがどうしてステッキに変わったのかも不思議だ。 「茉理。昨日の光、凄かったね。あれ、一体なんだったんだろう?」 「ばばば〜っと光ってたわね。凄かった!」  まさか、当の本人がその中にいた、とは言える訳もなく。あたしは流す事にした。 「野乃原先生が偶然来てくれたけど、来なかったらどうなってたんだろう?」 「偶然にしてはタイミングがよすぎるわよ。図ってる、って事も考えられるわ」  あたしを魔法少女に仕立て上げる為に図ったとすれば、知能犯だ。  やたらと用意も良かったし。あたしだから、と言った結先生の言葉も気になる。 「どうしてトレイで叩いたら動けたんだろ?」 「何かが割れる音がしたよね?」  確かに。何かが割れる音がした。何だったんだろう? 「一回、野乃原先生に聞いてみる必要があるわね。もしかして何かと戦っていたりして」 「ふふふ。そんな訳無いよ」  野乃原先生が何かと戦っている……想像がまったくつかないけれど。 「ちひろ。今日は一緒に帰れる?」 「う〜ん。今日はちょっと遅くなりそうだから」  ちひろの『ちょっと』は全く当てにならない。  また夜遅くまで頑張るつもりなんだろう。 「直樹にも手伝ってもらうように言っといてあげる。今日は一緒に帰ろ? 昨日の事もあるし」 「でも、久住先輩に悪いよ」 「大丈夫。どーせカフェテリアで暇を持て余してるんだから。たまには働かせてもバチは当たらないわよ。それで決まり」  根拠の無い自信であたしは押し切った。強引に押し切ればちひろは納得してくれる事もあたしは解っている。  そして、こういう時は大体あたしの言った通りに物事が進む事も。 「じゃ、放課後話してみる」 「よし、決定〜! 後は放課後ね」  チャイムの音が鳴った。  昼からは国語だった。担当の先生が急用で休みになったので、代わりに野乃原先生が来て、自習になった。  退屈な時間が過ぎていった。  あたしはシャーペンをくるくると回して窓の外を見た。  外では他のクラスが体育の授業中らしく、トラックをぐるぐると回っていた。  そして、あのトレイも……。  あ〜なんで、あたしがあんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。  ましてや、魔法少女なんて! 「渋垣さん」 「どうしてあたしが魔法少女なんてやらないといけないんですか!」 ―― シーン ――  周りを見渡すとあたしを中心に視線が集中していた。  気がつくと野乃原先生が横に立っている。もしかして、声に出てた? 「カフェテリアの魔法少女、渋垣茉理……って。アハハ。何言ってるんだろ? あたし」 ―― シーン ―― 「はいはい。渋垣さん。その話は職員室で聞きますから今はおとなしくしてくださいね?」  柔らかい口調だったが、先生の目は笑っていなかった。  恥ずかしさのあまり、あたしは小さくなるしかなかった。 「ゴメンなさい」 「茉理……」  ちひろが心配そうにこっちを見ていた。  自習の時間が終わった。かなり苦痛だった。みんなの視線が痛い。 「渋垣さん。ちょっと職員室で」 「……はーい」  しぶしぶあたしは野乃原先生の後について行った。 「――渋垣さん。不用意に魔法少女なんて言わないでください。刺客が聞いていたら大変な事になるんですよ」  職員室に入って開口一番がそれだった。  刺客、って。時代劇が好きなのかな? 野乃原先生は。 「刺客? 野乃原先生が、ですか?」 「私じゃなくって、刺客が、です。ロータスがあんな風に変わったのも刺客の仕業なのです」 「深野先生は刺客じゃないんですか? ロータスを連れて散歩してるじゃないですか」  あたしは真っ先に関係のありそうな深野先生について聞いてみた。 「深野先生はロータスがおかしくなったのに気がついて、私を呼んでくれたんですよ」 「ロータスをおかしくしてから、呼んだ、って事は無いんですか?」 「それは、無いですよ。深野先生は私たちの事を知っていますから」 「え?」  なんですって?  あたしたちを知っている?  意味が解らない。  いつの間にか野乃原先生の横には深野先生が立っていた。 「渋垣。お前の活躍は見ていたぞ。ロータスが喋るとはな。正直、私も驚いた」 「見ていたなら手伝ってください!」  これが直樹だったらぶっ飛ばしているところだけど。さすがに先生にそれは出来ない。 「いやいや。手伝っても良かったのだが、武器の威力も調べておきたかったのでね」 「ひょっとして、このトレイ……というか、ステッキ? は先生が?」 「ステッキはどうかと思ったんだが。叩くのが効果的だ、と野乃原先生がおっしゃったので、あえてそうした」  大真面目に答える深野先生。あたしはツッコむ気力すらなくなった。  先生達が言うにはこうだ。  変な事が起こる原因は、煙のような物が何かと同化しようとしているかららしい。  それが物に同化すると膜を張り、進化物質を発生させ、急激な進化を及ぼす。  しかし、代償として急激な時間の進行に巻き込まれる。  他人と同じ時間しかいないのに、その膜が同化している間は1分間に1日という速度で進み、  それを防ぐには、この道具でその膜を破るしかない。  ロータスもその影響で3ヶ月くらいの時間が進んだ、という事だった。 「じゃ、しばらくはその膜、っていうのを破る作業、って事になるの?」 「そういう事です」 「なぜ、あたしなの?」 「それは」――と野乃原先生が何かを言いかけた時、職員室のドアが開いた。 「大変! 橘が大変な事に!」  血相を変えて仁科先生が入って来た。 「恭子! 橘さんはどこにいるんですか?」 「温室よ」 「渋垣さん! 行きましょう!」  あたしは野乃原先生と一緒に温室に向かった。 「ちひろ!」 「うぐぐぐ……ま……つり」  ちひろは植物のツタで体を縛られていた。  奇妙な模様だ。所々に結び目がある。  そのツタの先は、ちひろが大事にしていた花の先に縛り付けられていた。  ちひろが引っ張ろうとすると、その花が千切れてしまうのだろう。  ちひろが何よりも大事にしていた、その花が。  やっと花を咲かせた、その努力を無に帰してしまう。  ちひろなら、何としてもその花を守ろうとするだろう。 「……ふふふふ。俺たちを駆除しようとするからだ」  そんな声の主は、大きな鳩だった。  その鳩はちひろを嘴でつついていた。  またしてもお約束な展開にあたしはだんだん腹が立ってきた。 「ちひろをこんな目にあわせるなんて……許せない!」  あたしはトレイを構えた。  回転させるとステッキのような物に変わる。  自分でも感情が高揚しているのがわかった。  ステッキを掲げると、あたしの体が光に包まれていった。 「マジカル☆まつりん!」  野乃原先生がそんな事を言っていた。  それと同時にステッキがピンク色に光った。  こんな事、前には無かったよ? 「やっぱり、恥ずかしいよ」  変身して思うのだが、コレって危ない人に襲われる為にあるのでは、と思う。 「その衣装は、まつりんが最大限の力を発揮できるように設計されているんです」 「最大限の力、ねぇ」 「そんな事よりも早く、橘さんを助けないと」 「ちひろ。今から助けるからね!」  あたしはちひろを縛っているツタを切ろうとした。  粘着性の液で手が滑り、なかなか切ることが出来ない。 「ダメ……まつりん。そのツタの……先に縛られている花を……先にほどいて」  どうしてちひろはあたしの事を『茉理』と呼ばなかったのだろう?  疑問が湧いてきたけれど、ちひろを助ける事が先、とその考えを打ち消した。 「わかったわ。すぐに助けてあげるから、頑張って」 「うん」  あたしは花の先にあるツタを解いた。  勢いでツタを引いてしまう。 「うう〜。まつりん」  ちひろが困ったような声を出していた。 「ゴメン。ちひろ」  慌ててあたしは手を離す。 「まつりん! 『まつりんソニック』と叫んであの鳩にそのステッキを投げるのです!」  何の事か分からないけれど、あたしは野乃原先生の言う通りにした。 「まつりんソニック!」  ステッキはトレイに戻り、まるでブーメランのように飛び、鳩に当たった。  ガシャーン!!  前に起こった事と同じように何かが割れるような音がしてトレイは戻ってきた。 「よっと」  あたしはトレイをキャッチして、当たった鳩を見ていた。 「デゥーデゥー、ポッポー」  鳩は元に戻った。それと同時にちひろの戒めも解けた。 「危ない!」  あたしが駆け寄るよりも早く、仁科先生がちひろを受け止めてくれた。 「こっちは大丈夫。それよりも早く変身を解いて。まつりん」 「どうやって?」 「トレイを掲げて『エスケープ』と言えば戻るわよ」  ホントかな。あたしは言われた通りにした。 「エスケープ」  トレイから光が溢れ出し、あたしは元の姿に戻った。あ。ホントだ。 「まつりー」 「ちひろ。無事だった?」 「う、うん。それよりも、フォステリアナは」 「無事ですよ。橘さん」  そう言って野乃原先生は無事だった植木鉢を両手で持った。 「ふぅ……よかっ……た」  安心したのだろう、ちひろはそのまま気を失った。  よかった。ちひろが無事で。  でも、どうして、ちひろばかり狙われるんだろう。 「渋垣さん。お見事です」  別に褒められても嬉しくは無いが、とりあえず流しておく。 「これからも……こんな事が、起こるんですよね?」  これから起こる事に、ため息が出た。 「はい……おそらくは」 「トホホ」  クタクタになった。  足取りも重く、戻ろうとしたけれど。 「あ。そういえば、カフェテリアの片付けがまだだった〜」  はぁ。二重の疲れがあたしを襲った。ま、いっか。ちひろが無事だったし。
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